Poetry

断章十五

翼 幾度も渡った跨線橋が師走だけは少しだけ華やいで見えたのは気のせいだったか。東京で一番地味なターミナル駅には谷中墓地の精霊たちが住んでいる。そんな当たり前のことを知らずにいた。雪が降ればいいのにと思った。でも東京に雪はふらない。 列車の扉…

traveling

英文科の女の子、なんていうのは世間に掃いて捨てるほどいるだろうが、ぼくの車の助手席にそんな属性を持った女性が乗っていることに対して、言いようのない違和感を覚えながら、ハンドルを握っていた。職場の同僚とご飯を食べた後で、たまたま帰る方向が同…

ドライポイント

夕方には真っ赤な太陽と富士山が見える3階の踊り場から中央階段を降りると公衆電話があって、その横に夏の花を活けた花瓶を描いた精緻なドライポイントが飾ってあった。県の展覧会で最優秀の賞を取ったらしい。三年生の名前が下に記されていて、その人がどん…

断章九

「おおかみさんになっていい?」なんでそんなことを聞いたのかわからない。多分陽子との関係性に苛立ちと言うか違和感というかそういうのを感じていたのかもしれない。「ひつじさんでいて」陽子は呆れすぎていつになく低い声で答えた。言われてみればぼくは…

さくら通り

新宿の歌舞伎町でも、さくら通りが好きだ。人の匂いがする。きっと血液の匂いが混じっていたとしても驚かない。18の時はじめてきた。パチスロ屋の前に並ぶとポン引きが話しかけてくる。「この店ははじめてかい?朝いちだけだから気をつけな」中国人、東南ア…

月下美人

月下美人という花を見たことがあるだろうか。 「あら、ちょうどいいところに来たわ」いつも歩く道で見知らぬ女性に話しかけられた。外は月明かりばかりで、暑い昼間を忘れさせるほど静かな夜だったのに、女性は白地に紫陽花に染められた浴衣姿で団扇を仰ぎな…

断章六

あなたのことをいつ発見して、いつから同じ電車に乗り始めたのかについて、全く覚えていないことに気づいた。田舎の高校から通っていたぼくは、中川の手前で通勤快速から真っ赤な各駅停車に乗り換えていた。もともとは同じ駅で急行を待っていたはずだったが…

序章 あるいは回収できなかった手紙について

たった500回同じ電車に乗ったあなたと同じになるためだけに乗った赤色の鈍行後ろ姿と白いふくらはぎしか知らなかったあなたは朝の風景だったし、手紙を渡したのは冷たい灰色の壁の前であなたの肌と黒い髪とセーラー服と赤いマフラーしかない色彩の場所であな…

的中祈願隊

パドックへ向かう途中、有人窓口の前に若い女が立っているのが見えた。的中祈願隊というふざけたメンバーの一人だ。馬券を買うと「当たりますように」と手を握ってくれる。まるで地下アイドルの握手会のようなものだ。僕のように独り者にはオアシスのような…

梅の咲く季節に

梅の咲く季節にもう逃げないし、優しい誰かを求めたりしない。言い訳もしない。

さみしいと思うより努力しなさい

85歳の孫基禎さんは、28歳の私にこう言いました。「努力しなさい。さみしい、つらいと思うと、努力できなくなる。さみしいと思うより努力しなさい。それは走ることも書くことも同じじゃないかね」— 柳美里さん (@yu_miri_0622) 2013年2月10日

LAT.43°N

無為にインターネットを彷徨っていたらDreams Come Trueの曲が耳にとまった。それを何度も繰り返し聴いていたら、随分と切ない気分になったが、僕自身がこの曲のような感情をもったことななかったので随分と不思議だった。思い出したのは最近知り合った女の…

12月の赤レンガ倉庫

なにか食べるものを売っているみたいだったが、一人で食べてもつまらないので通り過ぎた。初詣の縁日のような風景だった。

愛され方

愛され方が不思議なほどわからない。 だからきっと愛し方も分からない。

プラタナス

プラタナスの木は思い出の風景。大切な人と歩いた道。

ルミネ前

昼の日がまぶしすぎる。 でも夜はもっと寂しすぎる。

木漏れ日

公園には幸せのヒントが沢山あるように思える。 それだけに、疎外された僕にとっては羨ましく辛い場所でもある。

空しかない

かつて東京には空がないとの賜った女がいたが、実を言えば秋の新宿には空しかない。正面を見ると息苦しさしか覚えないからひたすら上を向いて歩いているのだ。

歌舞伎町

僕を毎年苦しめているのが首筋のリンパ腺だということに気づいたのは、ここ数年のことだ。熱くなった額を抱えて僕はもう死ぬんだろうと思ってもう10年は経っている。本当にまともに生きていけるのだろうか、雑踏に紛れて不安しか残らない。

AKBがいる街角で

AKBの大きなポスターのある街角で僕は10年もの時間を錯覚しているように思えた。つまり、君とここに来たのではないかということで、ここで君の話すジェーン・エアの話を聞き流した記憶のことだ。君は多分白いコートを着ていて髪型もどうだったかさえ覚えて…