断章九

「おおかみさんになっていい?」
なんでそんなことを聞いたのかわからない。多分陽子との関係性に苛立ちと言うか違和感というかそういうのを感じていたのかもしれない。
「ひつじさんでいて」
陽子は呆れすぎていつになく低い声で答えた。
言われてみればぼくはひつじさんだと思った。そのことを寮の同室のやつに話したら、腹を抱えて笑っていた。

 

きみは猫

何度も同じ坂を登った
いつもとなりの席に座っていた
きみは猫
まぶしいようにまばたきをする
ぼくはひつじ
望むなら
きみのセーターになろう

 

好きとか
愛しているとか
不倫とか
つまらない言葉だよね
言葉は嘘ばかりだから
もっとすてきな言葉を

 

羽根にもなるし
和音にもなるし
真赤な薔薇にもなる
きみを抱きしめることもできる
でも気がつくと

 

縛られている
からまったイヤホンのコードのように
「世の中に十に一つの真実もないんですよ」
ある完全犯罪者の言葉
多分それすらも嘘

 

何度も同じ坂を登った
いつもとなりの席に座っていた
きみは猫
まぶしいようにまばたきをする
ぼくはひつじ
望むなら
きみのセーターになろう