断章一

梅雨頃だったか、曇っていたが雲に日が反射して眩過ぎる印象的な午前、地理学の課外授業で街を歩いていた。何を教わったのかは忘れてしまったが、帰りの一方通行路にパトカーやらテレビ局やらが集まっていたのはよく覚えている。
毒ガスが撒かれた。他学部の学生が数名死んだ。

「よお、石崎。木村優子を見たで」場所は僕が住んでいた場所から数百メートルだったが、特段それで何が変わったわけではなかった。僕自身は全く苦しくなかった。

それから銀行や証券会社が破綻したり、今まで見たことのないような震災が起きたりした。それでも僕たちはたいてい苦しくなかったが、そんな真綿で包み込まれながら押しつぶされる感覚に、これから長く慣れていかなければならなかった。