断章二

僕は生涯で一通だけ書いたラブレターのことばかりかんがえていて、そのことはいずれ何らかの形で書くことになるのかもしれないが、よくよく考えると、そのラブレターを書く前に、僕自身が逆にそれをもらったことがあり、かつそのことをすっかり忘れていた。中学生の頃の話だ。そのラブレターを渡してきた相手というのがファニーフェイスの同級生で、ファニーフェイスのくせにちょっと生意気ということでクラスでいじめられていた女の子だった。僕は特段彼女の性格に嫌悪感を持たなかったし、自分自身もいじめられる側であることが多かったので、僕はそのいじめの輪には加わらなかった。彼女を守ったわけではなかったが少しだけ優しくした。
その一年後だったと思うが手紙を貰った。いいものをあげるねと、彼女は音楽室で部活の友達と待っていた。そして飾り気のない封筒を僕に渡した。内容は特段ラブレターという感じでもなく、僕のことを上から目線で褒める内容だったと思う。
その少し偉そうな文章に正直ムッとした。結局僕はそのお礼をしなかったようにも思う。
今思えば彼女には文才がなかったんだと思う。ラブレターという体裁をとらなくても、僕ならもっとうまく書けたと思う。彼女はたしかその時違うクラスになっていたと思う。にもかかわらずそんなものを渡してきたのだから、まったく勇気不要な行動とは言えなかっただろう。僕を喜ばせようとしてしたことを僕は純粋に感謝すべきだったのだ。
中学校を卒業して、一度だけ彼女と路線バスで一緒になった。僕も気づいていたし彼女も気づいていた。僕はそれほど女性に自分から話しかけるなんてほとんどしたことがなかったから、黙っていた。
彼女は前の方の席で少しだけ動揺していたようで揺れていたが、とても悲しそうな表情で途中のバスでいて降車した。
僕の性格からして自分から話しかけるなんでちょっと考えられないが、あの時ちゃんと話しかけていたら僕の人生は変わっていたのではないかと今更ながら思う。男女とか難しいことは別にして彼女が僕に好意を持っていることは明らかだったんだから、何も心配することはなかった。それではラブレターを渡した相手にだって話しかけられるはずはない。
結局自分の書いた言葉についていけないんだから、手紙なんかで気持ちを伝えるなんて、気取ったことはやるべきではないということだろう。